英国のカントリーサイドめぐり
ムーアに囲まれた小さな町 アルストン Alston
どこまでも続く広大なムーアの丘を越え、アルストンの町に着いた。初冬のムーアには、どんよりと黒く厚い雲がたれ込めていた。いつものムーアよりもさらに神秘的な力があふれているように感じ、身震いした。
行き交う車もなく、標識もない。ムーアの中を通る1本道を走り続けた。いくつも続く山道に特有のカーブをぎこちないハンドルさばきでやり過ごしていく。こんな時に限って、ガソリンの残量を示すゲージが「Empty」を指し、心細さに拍車をかけた。
アルストンの町は、カンブリア地方で活躍するクラフトマンのガイドブックで知った。そのガイドブックに載っていた陶器の写真に魅かれてやって来た。
イングランド北部の小さな町であるアルストンは、ムーアに囲まれた谷間にあった。
町に着き、陶器の情報を集めるためツーリスト・インフォメーションに行った。案内係のおばさんは、地図をコピーしてくれたり、電話で確認してくれたりと懇切丁寧にしてくれた。人のあたたかさに触れ、さっきまでの心細さが消え、落ち着きを取り戻しつつあった。
マクロ夫妻が作陶活動しているストコエ・ハウスは、町の中心にある17世紀に建てられた由緒ある家であった。
妻のシルは、ムーアの景色をモチーフにした壁掛け、花瓶、お皿を作っている。ムーア独特の色合いを土そのものに色付けし、1色ずつ焼く。そして焼き上がった土を何層にも貼り合わせ作り上げていた。
夫であるレイの代表作は、陶器のランプ台だった。円柱の中心をくり貫き、空洞になっているところにランプをセットすると、葉の間からやわらかい光がこぼれるように部屋を照らしていた。風に揺れている木のデザインものや緑豊かなオークの木をイメージしたものなどいろいろあった。
マクロ夫妻のどちらの陶器か聞かなかったが、淡い緑色の木が彫られたアロマテラピーの台が気に入った。アロマ液をろうそくの火で下から焚く形のもので、木の葉の部分がくり貫かれており、ろうそくの光が木に差し込むこもれびのように見えた。ゆらゆらと揺れる火の光が照らす空間は、とても居心地が良かった。しばらく、木の葉の間から見えるろうそくの炎を見つめていた。
ムーアに囲まれた小さな町で、陶器とろうそくの光に元気をもらった。帰り道のムーアが、どのように見えても身震いは起きないような気がした。
アルストンについて
アルストンムーアに囲まれた谷間にある町です。蒸気機関車の発着地があり、北カンブリアの美しい渓谷を見ることができます。