英国のカントリーサイドめぐり
エクセター Exeter

イギリス南西部の町、エクセターへ観光で行った。
ロンドンから電車で約3時間。町の中心にはどっしりと構える大聖堂がある。大聖堂周辺には芝の広場があり、天気が良い日は多くの人が芝に寝そべったり、読書をしたりとくつろいでいる。
町のほとりを流れるエクセ川にはボートやヨットが停泊している。穏やかな気候のため1年を通してウォーター・スポーツを楽しめる。
エクセター郊外のに泊まった。今回のB&Bは、宿泊できるのが1日2組だけの黄色の壁の小さなコテージだった。
翌朝、もう一組の宿泊客である夫婦と朝食で一緒になった。一週間ほどかけて南西部をまわるホリデーに来ていた。
「Good morning」
あいさつして、天気の話しをした。
今日の天気は曇り。雨が降りそうなどんよりと厚い雲が窓から見える。
婦人は、そんな空模様を見て、
「今日は良い天気ね」と言った。
「どうして。曇りですよ」と聞くと、
婦人はイギリスの天気の気に入っている理由を話し始めた。
「以前にアメリカのカリフォルニアに行ったことがあるの。毎日、晴れだったわ。最初の数日は晴れの日が続いて良いところだと思ったの。でも、毎日、毎日、晴れ。何も変化のない天気が一週間も続くと飽きてしまったわ。イギリスの天気で晴れが続くことはほとんどない。
1日の内でも晴れたり雨が降ったりと変化に富んでいる。イギリスの天気は雨が多くて好きではないという人もいるけれど、私は、イギリスの天気が気に入っている。
晴れの日は、うれしいから天気予報を毎日チェックするの。あまり当てにならないけれどね」
私は、トーストにベーコンを挟んで食べていた。
婦人の旦那は、ベイクド・ビーンズを目玉焼き、ソーセージ、ベーコン、マッシュルームのすべてにかけて食べていた。
彼らは、明日までここに泊まり、今日はエクセターの町を中心に観光する予定を話してくれた。
私は、昨日、エクセターを観光していたので大聖堂のことやその前にあるティールームでランチにサーモン・オムレツを食べたことを話した。そして、今日は、電車でシェルボーンに行くつもりだと言った。
すると、婦人が駅までなら車に乗せていってあげますよ、と言ってくれた。私は、バスで行く予定だったので、婦人のお言葉に甘えさせてもらうことにした。
平日の朝ということもあり、町の中心に入ると混雑していたが、大きな渋滞もなくすんなりと駅まで送ってもらった。
ここまでは、よかった。私はお礼をして別れた後、いい人と一緒に泊まることができて良かったという気持ちで感謝していた。
夫婦の車を見送り、荷物を担ぎ上げた時に気付いた。
カメラを入れておいたバッグがない。
車の後部座席に座った私は、その足元にバッグを置いた。駅に着いたとき、駅まで送ってもらったことへのお礼を英語でどのように言うかを考えていたせいだろう。すっかりバッグのことを忘れていた。結局、「Thank you very much」と言ったくらいだったのに。
どうすることもできず、しばしその場に呆然と立っていた。
すると、道路を挟んだ向こう側の歩道をさっきの夫婦が歩いている。手を振り合図をした。夫婦もこっちに気付き、笑顔を返してくれた。 私は、夫婦に駆け寄り、バッグを車の中に忘れたことを伝えた。
夫婦は、驚いた様子だったが、車は駅の裏側の駐車場に止めてあるから取っておいで、と。旦那さんと一緒に取りに行き、無事、カメラは手元に戻ってきた。
さっき考えていて言えなかったお礼の言葉を言った。
婦人は、 「大袈裟ね。それより、大事なものを忘れるなんてどうかしているわ。今度は、あなた自身を電車に忘れないようにしなさいよ」と。
その後、旅行中に何度か些細なものを置き忘れすることがあった。その度に、婦人の言葉を思い出し、自分自身をどこかに置き忘れていないか振り返るのだった。
