英国のカントリーサイドめぐり
荒野を歩く ダートムーア Dartmoor
地平線の彼方まで続くムーア。ヒースの生い茂る荒涼とした丘陵。初めて仲間たちと歩いて以来、その景色が強烈に私の心に残っており、忘れることができなかった。
もう一度あの景色を見たいと思い、ダートムーアに向かった。
1人でムーアを歩いた。途中に行き先を示す標識などなく、地図だけを頼りに目的地に向かう。どこまでも同じ景色が永遠と続いていた。その真ん中に立ち、どの方向に行くか、自分で決め、自らの足で進んで行った。
地図はあるが、この方向で正しいのか、時々不安になった。 しかし、目印となる建物も、看板も何もない。あるのは延々と広がる荒野の中に人が踏み固めてできた道だけ。
最初はどこまで行っても同じ景色が続いているように思えた。前に進めば進むほど不安に駆られ、何度も立ち止まりそうになった。つい先ほど見た景色が繰り返され、前に進んでいるかも分からなくなり、同じ所をぐるぐる回っているような感覚にさえなった。
来た道を戻ろうと思い出そうとするが、すべて同じ景色に見えて思い出すことができなかった。
自分と地図だけが頼りとなるこの空間が続く。正しいのか、間違っているのかもわからぬまま、ずっと歩き続けなければならない。
どれくらい歩いただろうか。遠くに荒い岩肌を見せる丘が盛り上がっているのが見えた。その頂辺に岩を積み上げてできた遺跡らしきものがある。あの岩の上に立って全景を見渡し、自分のいる場所がどこなのか確認すべく歩みを進めた。
遺跡は、前方に動かずにあるが、近づいているようでなかなか近づいてこない。雲行きが変わり、雨が降り始め視界が悪くなってきた。 疲れが出始め、道端にある石に腰を下ろす。
しかし、心細いのか、異様な孤独と不安に襲われ、落ち着いて休むことができない。足を止めてしまうと、次の一歩をどの方向に出していいのか分からなくなりそうに思えた。
地図を確認しただけで再び歩き出す。
自分がどこにいるのか、どこに向かっているのか、早く知りたかった。
ようやく遺跡の下まで来た。緩やかに頂辺まで続く真っ直ぐな坂道を登る。元気があれば間単に登れそうな坂が、疲れきった体には頂辺が遠く感じた。
1歩が重く、息を切らし、それでも上だけを見て進んだ。 頂辺に着いた頃にはさっきまで降っていた雨は止んでいたが、薄黒い雲に覆われてどんよりとしている。
目の前にある遺跡は、目的地へ続く通過点だと勝手に思い込んで登ってきたが、実際、正しい方向であるかどうかは分からなかった。
とにかく岩の塊によじ登り、立ち上がった。遺跡は、平らな岩を何層にも積み重なっており、7~8mの高さはあった。 頭上には、うっすらと灰色の雲が広がっている。
登ってきた方を見ると通り過ぎていった雨雲があり、雨を降らしている。その反対方向のずっと遠くに雲の切れ間があった。その切れ間から太陽の光が差し込み、空気中に漂う塵や水滴を照らし、淡い輝きとなって降り注いでいるのが見えた。